「日本の革は世界に通用するか」——この問いに対して、日本政府と革産業が一体となって「YES」と示そうとするプロジェクトが動いています。
経済産業省が主導する「NEW STANDARD JAPAN LEATHER PROJECT」は、日本製皮革製品のサステナビリティ認証取得の標準化と、海外ブランド確立を目的として2025年度に発足。2026年1月〜3月にかけて、イタリア・フランス・中国の3会場での展示会出展を実施しました。本記事では、このプロジェクトの全容と日本の革産業が目指す「新しいスタンダード」について詳しく解説します。
目次
- NEW STANDARD JAPAN LEATHER PROJECTとは
- 3つの展示会場:ピッティ・パリ・上海
- 参加ブランドの紹介
- なぜ今、日本製革製品の海外発信が必要なのか
- 国際サステナビリティ認証と日本革産業
- 日本のタンナーが持つ強み
- 日本の革産業の今後の展望
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
NEW STANDARD JAPAN LEATHER PROJECTとは
「NEW STANDARD JAPAN LEATHER PROJECT」は、経済産業省が執行する「日本製皮革及び皮革製品のJAPANブランド海外発信事業(令和7年度皮革産業振興対策事業費)」の一環として実施されているプロジェクトです。
その目的は大きく3つです。国内皮革産業における国際的なサステナビリティ認証基準への対応を標準化すること、日本製皮革製品のブランドを確立すること、そして国際市場への浸透を図ることです。
日本の皮革産業は技術力において世界トップレベルを誇りながら、国際的な認知・ブランド力という点では欧州(イタリア・フランス)に大きく後れを取ってきました。このプロジェクトはその格差を埋めるための戦略的な取り組みです。

3つの展示会場:ピッティ・パリ・上海
① PITTI IMMAGINE UOMO(イタリア・フィレンツェ)
2026年1月13〜16日、イタリア・フィレンツェのフォルテッツァ・ダ・バッソで開催されたメンズファッションの最高峰展示会です。世界中から高感度なバイヤー・メディアが集まるこの舞台で、日本製皮革製品を発表することは、ブランドの国際的な信頼性を確立する上で非常に大きな意味を持ちます。
② MAN/WOMAN(フランス・パリ)
2026年1月23日からパリで開催されたメンズ・ウィメンズのショールーム型展示会です。パリファッションウィークと連動したこの見本市は、欧州の主要バイヤーとの商談の場として機能します。ファッション性と素材品質の両方が問われる舞台です。
③ CONZ 上海 富民路(中国・上海)
株式会社TOKYO BASEが運営する上海のセレクトショップ「CONZ 上海 富民路」での展示販売です。急成長する中国市場における「日本製高品質革製品」の認知拡大を目指す取り組みで、富裕層・感度の高い消費者への直接アプローチが可能な場となっています。
参加ブランドの紹介
今回のプロジェクトには3つのカテゴリでブランドが参加しています。
招聘デザイナーズブランド:TAAKK(ターク)
デザイナー森川拓野氏が率いる「TAAKK」は、国内の皮革産地を自ら巡り、各タンナー工場で革を厳選。それぞれの地域で培われた革の特性を活かした製品開発を行い、パリファッションウィークや世界各国の展示会で発表しています。日本の革産地の魅力を、ファッションという文脈で世界に届ける先駆的な取り組みです。
クリエイティブディレクター監修ブランド:brightway・TAANNERR
国内外のファッション市場に精通するクリエイティブディレクター内山省治氏が監修する2ブランドです。革靴ブランド「brightway(ブライトウェイ)」とバッグブランド「TAANNERR(タァンネリル)」として製品開発を展開。機能性・デザイン性・素材品質を高次元でバランスさせた製品で、海外バイヤーへのアピールを図っています。
国際見本市参画ブランド:A LEATHER・REGAL Shoe & Co.・TEP_P
昨年度の展示会で高い評価を得た「A LEATHER(エーレザー)」と「REGAL Shoe & Co.(リーガルシューアンドコー)」、そして新たに参加する革靴ブランド「TEP_P(テップ)」の3社が参加しています。リーガルは日本を代表する老舗革靴ブランドとして、海外市場での「MADE IN JAPAN」の価値を体現する存在です。
なぜ今、日本製革製品の海外発信が必要なのか
経産省が2025年に発表した国内皮革産業の現状分析によれば、国内の皮革産業出荷額はピーク時(1991年)から約5分の1に縮小しており、輸入品が内需に占める割合は79%にまで拡大しています。一方、革製かばんと靴の輸出額はコロナ禍前に比べて増加傾向にあります。
つまり日本の革産業が生き残るためには、縮小する国内市場だけを見ていては限界があり、海外への積極展開が生存戦略そのものになっています。特に、日本のタンナーが誇る高い技術力・品質・環境配慮を「ブランド」として国際的に認知させることが急務です。
加えて、2032年度にかけてTPP11・日EU・EPAによる革製品の関税が段階的に撤廃される予定で、競争環境はさらに厳しくなります。この状況下で差別化できるのは、模倣困難な「品質・技術・ストーリー」だけです。
国際サステナビリティ認証と日本革産業
このプロジェクトで特に重要視されているのが、国際的なサステナビリティ認証への対応です。欧米の大手ファッションブランドはすでに、サプライヤー(タンナー・製品メーカー)に対してLWG(Leather Working Group)認証などの環境認証を取得していることを条件にするケースが増えています。
日本のタンナーは技術力は高いものの、こうした認証取得への対応が個々のタンナーに委ねられてきました。このプロジェクトでは、認証取得の標準化・共通化を推進し、日本全体として国際基準に対応できる体制を整えることを目指しています。
日本のタンナーが持つ強み
日本には世界に誇る皮革産地が複数存在します。
姫路(兵庫県)は国内最大の皮革産地で、特に「姫路白なめし」は独自の技術で世界的に知られています。栃木(栃木県)は植物タンニンなめしのヌメ革を生産するタンナーが集積しており、「栃木レザー」は国内外に熱狂的なファンを持つブランドとして確立されています。東京・墨田区は皮革製品加工の集積地として、革靴・革小物の生産において高度な分業体制を維持しています。
これらの産地が持つのは単なる「技術」ではなく、地域の歴史・文化・職人の哲学が染み込んだ「ものがたりのある革」です。それは大量生産を前提とした海外産革には絶対に生み出せない付加価値であり、世界市場での差別化の核心です。
日本の革産業の今後の展望
NEW STANDARD JAPAN LEATHER PROJECTは、単なる展示会出展にとどまりません。このプロジェクトが目指す真のゴールは、「日本製革製品」が世界の買い手・消費者の頭の中に「高品質・サステナブル・クラフツマンシップ」というイメージで刻まれる状態を作り出すことです。
イタリア革産業が「タンナーと製品メーカーが密接に連携し、革の可能性を共に追求する」ことで世界トップの地位を築いてきたように、日本も同様のエコシステムを形成する可能性を持っています。TAAKKのような若いデザイナーが産地のタンナーと直接つながり、革の特性を最大限に活かした製品を世界に発信する——このモデルは、日本の革産業の未来形のひとつです。
消費者として私たちができることは、日本製の革製品を選び、長く愛用することです。それが最も直接的な産業への支援になります。
よくある質問(FAQ)
Q. 「栃木レザー」や「姫路レザー」は世界でどう評価されていますか?
A. 両産地とも海外の革マニアや高級ブランドから高く評価されています。栃木レザーのヌメ革は経年変化の美しさで知られ、国内外のレザークラフターに人気があります。姫路レザーは特に白なめしの技術が独自で、世界的なバイヤーからの注目度も高まっています。
Q. 日本製の革靴・革バッグはどこで購入できますか?
A. リーガルを始めとする国産革靴ブランドは全国の百貨店や直営店で購入可能です。「日本革市」公式サイトでは、国産皮革を60%以上使用した製品を取り扱うメーカーを検索できます。また、TAAAKKなどのデザイナーズブランドはセレクトショップやオンラインストアで手に入ります。
Q. 「ピッティ・イマジネ・ウオモ」とはどんな展示会ですか?
A. イタリア・フィレンツェで年2回開催される世界最高峰のメンズファッション展示会です。世界中のバイヤー・プレス・デザイナーが集まり、次シーズンのトレンドが発信される場です。出展するだけで世界のファッション業界から認知される機会となるため、日本ブランドの出展は非常に大きな意義を持ちます。
まとめ
「NEW STANDARD JAPAN LEATHER PROJECT」は、日本の革産業が本気で世界に挑むための戦略的プロジェクトです。技術力・品質・ものがたりという日本ならではの強みを、国際的なサステナビリティ認証と組み合わせることで、世界の高級品市場における「日本製革製品」の地位確立を目指しています。
ピッティ・パリ・上海という世界の重要拠点での発信は、その第一歩。TAAKKやリーガルといった多様なブランドが参加し、それぞれの個性で日本の革の魅力を世界に伝えています。
日本製の革製品を選ぶことは、この産業の未来を応援することでもあります。お気に入りの一品を見つけ、日本の革文化を一緒に育てていきましょう。


