中国タンナーの売上高が2025年に約10%減少|貿易関税・地政学リスクが世界レザー産業に与える影響とは

2026年3月13日、香港で開催されたAPLF(アジア太平洋レザーフェア)のプレスカンファレンスにおいて、中国皮革産業協会(CLIA)が衝撃的なデータを発表しました。2025年の中国タンナー(製革業者)の売上高は前年比で約10%減少し、輸出入ともに軒並み下落したというものです。世界最大の皮革生産・輸出国である中国の不振は、日本を含むグローバルな革製品市場にも大きな影響を与えます。この記事では、その背景と今後の展望をわかりやすく解説します。

革製品を愛用している方、革業界に携わっている方にとって、中国の皮革産業の動向は決して対岸の火事ではありません。素材価格、製品調達、ブランド戦略まで、日本市場への波及をしっかり理解しておきましょう。

目次

CLIAが発表した2025年の数字――タンナー売上高が約10%減

2026年3月12日〜14日、香港コンベンション&エキシビションセンター(HKCEC)で開催されたAPLF 2026。その会期中の3月13日、中国皮革産業協会(CLIA:China Leather Industry Association)が公式プレスカンファレンスを開き、2025年通年の業績データを公表しました。

発表によると、中国タンナーの売上高は2025年に約10%減少しており、これは2024年と比較して大幅な落ち込みです。また、輸出入の金額・数量いずれも前年を下回るという、業界全体での逆風を示すデータとなりました。

国際皮革業界メディアのInternational Leather Maker(ILM)は同データを3月19日に報道。さらに3月20日付の記事では「中国皮革産業の売上高・貿易収支ともに2025年は悪化した」と総括しています。

革靴・皮革製品の輸出入データも軒並みマイナス

CLIAが公表したデータはタンナーだけにとどまりません。中国の皮革関連産業全体のデータを見ると、深刻な落ち込みが浮き彫りになります。以下は2025年1月〜10月の主要指標です。

カテゴリ数量の変化金額の変化
靴全体の輸出−1.7%(74.2億足)−10.0%(345億USD)
靴全体の輸入−15.1%(1億4,000万足)−10.1%(44億USD)
革靴の輸出−4.8%(4億3,000万足)−9.6%(60.6億USD)
革靴の輸入−23.9%(4,329万足)−18.8%(19.7億USD)
主要製靴企業の売上高前年比 −5.5%
革靴主要企業の売上高前年比 −7.6%
出典:中国皮革産業協会(CLIA)データをもとに作成 / APLF.com, International Leather Maker

特に注目すべきは革靴輸入の落ち込みで、数量ベースで約24%、金額ベースで約19%という急激な減少は、中国国内の消費者需要の冷え込みを如実に表しています。

なぜ下落したのか?3つの主要因

これほど広範な落ち込みが生じた背景には、複合的な要因があります。International Leather Makerはじめ各業界メディアの分析を総合すると、主に以下の3つに集約されます。

① 国内需要の低迷

中国では不動産市場の低迷が消費者心理に影響を与え続けており、ファッション・革製品など可処分所得に左右されるカテゴリーでは消費が抑制されています。高級革製品への需要は特に打撃を受けており、ルイ・ヴィトンやグッチなどのラグジュアリーブランドも中国市場での売上回復に苦慮しています。

② 貿易関税(米中貿易摩擦)の影響

米国が中国産品に課した追加関税は、革靴・皮革製品の輸出競争力を大きく損ないました。従来、米国は中国にとって最大の革製品輸出先のひとつでしたが、関税の壁によって取引が大幅に縮小。原材料(生皮・ウェットブルー)の輸入コストも上昇し、タンナーの採算悪化に直結しました。

③ 地政学的リスクと市場の不透明感

ウクライナ情勢の長期化や中東の不安定化、そして米中関係の緊張は、グローバルなサプライチェーンに不確実性をもたらしています。APLF 2026でも「地政学的リスクがサプライチェーンに影を落としており、市場の方向性が見えない」と多くの業界関係者が口にしていたと伝えられています。

APLF 2026でも「地政学的不透明感」が漂う

今回のデータ発表の舞台となったAPLFは、1984年の初回開催以来、世界最大規模の皮革業界専門見本市として知られています。毎年3月に香港で開催され、タンナー・原皮業者・化学薬品メーカー・革製品ブランドなど100カ国以上から800社超が出展。年間来場者数は1万人を超えます。

しかし2026年大会は、ILMの報道によれば「縮小規模での開催」となり、初日の午前中は来場者の入りが鈍かったとも伝えられています。午後から盛り返したものの、全体的に業界の慎重姿勢が反映される形となりました。ILMは「2026年のAPLFは地政学的な出来事がグローバルな皮革サプライチェーンに不確実性をもたらし、市場の行方が見えない状態で閉幕した」と総括しています。

また、APLF前日の3月11日には「Leather Supply Chain Conference 2026 ― The Great Leather Reset」と題した半日カンファレンスが開催され、革のサーキュラリティ(循環利用)、トレーサビリティ、AI活用、重金属フリーのなめし手法などが議論されました。

日本の革製品市場への影響は?

「中国の皮革産業の問題は、日本にどう関係するの?」と思う方もいるかもしれません。実は非常に密接につながっています。

まず素材調達の観点から見ると、日本の革製品ブランドの多くが中国や東南アジアで生産された革素材・皮革製品を使用しています。中国のタンナーが生産コストの圧迫を受けると、素材価格の上昇や品質管理のリスクが高まる可能性があります。

次に競合商品の流入という側面もあります。中国国内向け需要が低下した分、中国メーカーが安値で海外向け輸出を増やすケースも考えられます。価格訴求型の中国製革製品が日本市場に大量流入すれば、国内ブランドは価格面での競争圧力に直面します。

一方でチャンスもあります。「Made in Japan」の革製品や日本産タンナー(栃木レザー、姫路レザーなど)の素材は、品質・安全性・トレーサビリティの面で中国産と差別化できます。中国製品への信頼性が揺らぐ局面では、むしろ国産ブランドへの需要シフトが起こる可能性があります。

革を長く大切に使うためのメンテナンスも、革製品の価値を守る重要な習慣です。

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2026年以降の展望――回復の可能性と課題

厳しい数字が並ぶ一方、回復の芽もゼロではありません。APLFの公式レポート(2026年2月発表)では、Bain & Companyの予測として2026年のグローバルラグジュアリー市場は最大5%成長が見込まれると指摘しています。特に米国と中東が牽引役とされており、中国消費者が本格的に回復すれば、革製品需要への追い風となるシナリオも描けます。

また、業界内では「革のリセット」という議論が活発化しています。数量から価値へ、使い捨てから耐久性へ、というシフトです。国際タンナー協会(ICT)会長のBurak Uyguner氏はAPLF前夜のカンファレンスで「Reset, Rethink, React(再設計・再考・行動)」と題した提言を行い、バイオマテリアルとしての革の価値を正しく訴求することの重要性を強調しました。

課題としては、貿易関税の動向、中国国内消費の回復ペース、EUのデューデリジェンス規制(EUDR)への対応という3点が挙げられます。特にEU向け輸出には今後、原料のトレーサビリティ証明が求められるようになり、対応コストが業界全体に影響します。

革を愛する消費者の立場からは、「安さだけで選ばず、長く使えるものをしっかり選ぶ」という行動が、持続可能な革産業を支えることにつながります。

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よくある質問(FAQ)

Q. 中国タンナーの売上高が減ると、日本で売られている革製品の価格は上がるの?

A. 必ずしもそうとは限りません。生産コストの上昇が価格転嫁につながるケースもありますが、一方で中国メーカーが輸出向けに値下げ競争を強める場面もあります。為替レートやブランド戦略によっても左右されるため、一概には言えません。ただし、高品質な日本産・イタリア産など産地が明確な革製品は、相対的に価値が再評価される傾向があります。

Q. 中国の皮革産業はこれからも世界最大を維持するの?

A. 生産量・輸出量の絶対値では依然として世界最大クラスです。ただし、インド・バングラデシュ・ベトナムなど人件費の安い新興国がシェアを伸ばしており、「世界の革製品工場」としての中国の地位は徐々に変化しつつあります。今後は数量競争ではなく、高付加価値・高品質路線へのシフトが求められる局面です。

Q. APLFとはどんなイベント?日本からも参加できる?

A. APLFは毎年3月に香港で開催される世界最大規模の皮革専門見本市です。タンナー、原皮・化学品メーカー、ファッションブランドなど100カ国以上から参加します。日本からも革製品ブランドや素材メーカーが参加・視察に訪れており、トレンドや業界動向をいち早くキャッチするための重要な場となっています。

参考記事・情報源