革の小売りで働いていたとき、毎日のように革の端材が出ていました。卸から仕入れた革を裁断し、半裁や丸革をお客様の求めるサイズにカットする。その過程で、必ず余りが生まれます。その行き先には、はっきりとした「階層」がありました。そして一番下の階層にあった革は、毎日、捨てられていました。今回は、その捨てられる革がどこへ行けるのか——アップサイクルの理想と現実を、現場で見た目線から書いてみたいと思います。
目次
- 現場で見た、端材の「階層」
- なぜ「1デシ未満」は捨てられるのか
- 小さいことは、欠点ではなくなる
- 砕いて活かす——再生レザーという答え
- ただし「砕けばエコ」とは言えない
- 現場で捨てられていた革に、ありえる出口
- よくある質問
現場で見た、端材の「階層」
余った革の行き先には、上から順にこんな階層がありました。まず、傷などで正規品にできないB品。これはデッドストックとして売り出されていて、流通はうまく回っていました。次に、ある程度の大きさが残った1デシ以上の余り革。これはブランドレザーであっても「はぎれ」として格安で売られ、ここまでは一応の出口があります。
問題は、その下です。1デシ未満の小さな端材は、捨てられていました。1デシは、手のひらに乗るくらいの大きさ。それより小さい切れ端が、裁断のたびに毎日生まれ、そのまま廃棄されていく。この記事で考えたいのは、この一番下の階層の革のことです。
なぜ「1デシ未満」は捨てられるのか
理由は、きわめて現実的です。小さすぎて、商品として値段がつかない。むしろ、選り分けて、梱包して、在庫管理する手間のコストのほうが、革そのものの価値より高くついてしまう。だから「売る」という選択肢が経済的に成り立たないのです。
では、レザークラフトの材料にすればいいのでは——とよく言われます。けれど、ここに現場ならではの実感があります。1デシ未満は、正直そのままだとレザークラフトでも使いづらいのです。小さすぎて、作れるものが限られる。だから「端材はクラフトに使えます」という言葉だけでは、この一番小さな層は救えません。ここを直視しないと、きれいごとで終わってしまいます。
そして、これは一つの店だけの話ではありません。革は大きさも品質もまちまちで、一枚から製品に使えるのは状態の良い部分だけ。残りの2〜3割は捨てられるとも言われ、その焼却処分には燃料がかかり、CO2も出ます。業界全体で見れば、決して小さくない量の革が、毎日どこかで捨てられているのです。
小さいことは、欠点ではなくなる
ここで、見方を一段ずらしてみます。1デシ未満の端材が使いづらいのは、「革の板」として見るからです。財布や鞄をとるには小さすぎる。けれど、もしこれを「革という繊維の原料」として見たらどうでしょう。砕いて繊維にしてしまえば、もとの一片が大きかろうが小さかろうが、関係なくなります。
つまり、小さいことは欠点ではなくなる。これは、私自身も現場で「一度砕いて再利用できないものか」と漠然と考えていたことでもあります。そして調べてみると、この方向は、世界ですでに本命の答えとして動いていました。
砕いて活かす——再生レザーという答え
端材を繊維状に粉砕し、ラテックスなどの接着剤と混ぜ合わせ、シート状に固め直した素材があります。リサイクルレザー(再生レザー、レザーボード、ボンデッドレザー)と呼ばれるものです。これまで捨てられてきた切れ端を、新しい素材としてよみがえらせる。サイズを問わず原料にできるので、まさに「1デシ未満」の出口になりえます。ベルト、時計ベルト、財布や小物の芯材、本の装丁、家具など、用途は意外と広い。

もう少し大きい、クラフトに使えるサイズの端材なら、作り手につなぐ道もあります。たとえばハンドメイドの世界では、財布づくりで出た栃木レザーの端材で小さなキーケースを仕立てる作家さんや、切れ端をパッチワークに組み上げて一足の靴に仕上げる靴職人もいます。「捨てるしかない切れ端」を、デザインの力で主役に変えている例です。サイズごとに、ふさわしい出口は違う、ということです。
ただし「砕けばエコ」とは言えない
ここからが、いちばん正直に書きたい部分です。「砕いて再生レザーにすれば、それでエコ」——そう単純には言えません。ここには、はっきりと罠があります。
市販されている安価なボンデッドレザーの中には、本革の繊維はわずか1〜2割で、残りの8〜9割が石油由来のポリウレタンなどの樹脂、というものが少なくありません。これはもう、実態としては合皮にかなり近い。「リサイクルレザー」という響きの良い名前が、中身のほとんどがプラスチックであることを覆い隠してしまう。私はバイオレザーやヴィーガンレザーについても同じことを感じていますが、ここでも構図は同じです。
だから、再生レザーを十把一絡げに「善」とは扱えません。見るべきは、革繊維と樹脂の比率、そして接着剤が天然系か石油系かです。たとえば、革繊維の比率を6割ほどに高め、天然のラテックスで固めたものは、本革に近い風合いと一定の強度を持ちます。ただし、繊維比率を上げて風合いを残すと強度は落ち、樹脂を増やして強度を上げると風合いは失われる——という、避けがたいトレードオフもあります。「再生レザーです」の一言では、まだ何も分からない。中身を問う目が要るのです。
現場で捨てられていた革に、ありえる出口
ここまでを踏まえて、現場で毎日革を捨てていた一人として、こう考えています。「捨てる」か「合皮もどきにする」かの二択ではなく、その間に出口を設計できるはずだ、と。
ひとつは、1デシ未満のような小さな端材を、無理に革のフリをした素材に仕立てるのではなく、天然系のバインダーで固めた再生レザーを「芯材・補強材」という裏方に回すこと。小物の内部でしっかり形を支える役割なら、風合いは問われず、革繊維の素性が活きます。派手な主役にしなくても、確実に使い道がある。
ふたつめは、クラフトに使えるサイズの端材を、作り手と確実につなぐ流通をつくること。捨てられる前に、必要としている人の手に渡る仕組みがあれば、それだけで救える革があります。みっつめは、いっそ革に似せることをやめ、別の素材として生まれ変わらせる発想。海外には、革の製造で出る残渣を紙の原料に混ぜ込む取り組みもあります。「革は革に戻すべき」という思い込みを外すと、出口はもっと広がります。
これらはまだ、現場を離れた一人の提案にすぎません。けれど、毎日あの小さな端材が捨てられていくのを見ていた人間として、「もったいない」で終わらせたくないのです。革業界を外から否定するのではなく、捨てられていた革に、現実的な出口を一つでも増やせないか。同じ問題意識を持つ方がいたら、ぜひ一緒に考えたいと思います。
よくある質問
Q. リサイクルレザー(再生レザー)は、合皮と何が違うのですか?
本革の繊維が主体か、樹脂が主体かで大きく変わります。革繊維の比率が高く天然系の接着剤で固めたものは本革に近い性質を持ちますが、樹脂が8〜9割を占める安価なものは、実態として合皮に近くなります。名前ではなく中身(繊維比率と接着剤)を見ることが大切です。
Q. 端材はレザークラフトに回せば解決では?
ある程度の大きさがあれば有効で、小物やパッチワークに活かす作り手もいます。ただ、1デシ未満の小さな端材は、そのままではクラフトでも使いづらいのが現実です。そこを救うには、砕いて繊維として再利用する道が必要になります。
Q. 砕いて再生レザーにすれば「エコ」と言えますか?
一概には言えません。天然系の接着剤で革繊維の比率が高いものは本革に近く長持ちしますが、ポリウレタンを多用したものは石油由来の素材が大半を占め、環境面で手放しにエコとは言いにくくなります。
Q. 小さな端材に、現実的な使い道はありますか?
見える主役にこだわらなければ、あります。芯材や補強材として小物の内部で使えば、風合いを問われずに革繊維の強みを活かせます。「裏方」としての出口は、意外と現実的です。


