【2026年3月13日〜3月19日】今週の革業界ニュースまとめ|業界動向と注目トレンドを解説

革靴の名門が構造改革を断行し、アジア最大の皮革見本市が幕を閉じた――そんな激動の一週間が、レザー業界に新たな問いを突きつけている。国内では「革靴離れ」という長年の課題が名門ブランドを揺さぶり、海外では「革こそサステナブル」という力強い声が世界に響き渡った。量より質、消費より継承へ。2026年3月の革業界は、確かな転換点を迎えている。

目次


① リーガルコーポレーション 希望退職者47名確定・チヨダシューズ全従業員退職完了

老舗革靴メーカー・リーガルコーポレーションが進めてきた構造改革が、この週に大きな節目を迎えた。2026年2月17日〜3月13日に実施した希望退職の募集に対し、47名が応募したことが明らかになった。退職日は4月30日付で、特別退職金の支給と再就職支援が行われる。さらに、同社の100%子会社・チヨダシューズの全従業員63名が3月20日付で退職した。1924年創業という100年超の歴史を持つ新潟県加茂市の工場は操業を停止し、グッドイヤーウエルト製法による高級革靴を生み出してきた職人の技術が、その場所での継承の機会を失った。希望退職者とチヨダシューズ退職者を合計すると約113名という大規模なリストラとなり、関連特別損失は約6億1,800万円に上る見込みだ。背景には、コロナ禍以降のテレワーク定着やビジネスカジュアル化による革靴需要の長期低迷がある。直近の売上高はピーク時の2019年3月期(329億円)から大幅に減少しており、中価格帯の革靴市場は消費の二極化の波に最も直撃されている構造だ。

📝 編集部コメント

リーガルの構造改革は、単なる一企業の経営問題ではない。1924年から職人技を守り続けたチヨダシューズの終焉は、日本の革靴製造における「グッドイヤーウエルト製法」という高度な手仕事の継承断絶を意味する。革靴を愛するユーザーには「いま持っている一足を長く大切に」というメッセージを。事業者には「中価格帯の危機は他人事でない」という現実を見据えてほしい。一方でリーガルはブランドとして存続を続ける。日本の革靴文化が「量より質」の高付加価値路線へ舵を切るための、苦しくも必然のターニングポイントかもしれない。


② APLF香港2026閉幕——65カ国超のバイヤーが集結、業界の回復基調を確認

2026年3月12日〜14日にかけて香港会議展覧中心(HKCEC)で開催されたアジア太平洋皮革展(APLF)が閉幕した。世界最大規模の皮革専門展示会のひとつで、今年は800社超の出展企業と、65カ国以上から集まった90名超のバイヤーが参加するビジネスマッチングセッションが約1,000件実施された。参加率は100%という高い水準を記録した。APLFの事前レポートでは「2026年は復調と再編の年」との見立てが示されており、米国・中東が最も活発なマーケットとして注目されている。中国市場の回復も期待されており、ラグジュアリーレザーグッズや高級フットウェアへの需要拡大が業界全体の追い風になるとの分析もあった。今年度のAPLFでは、NextGen Fashion Materials Tech Talkや、LHCA・Leather Naturally主催のセミナーも開催され、サステナビリティと素材革新が議論の中心となった。また、バッグデザインコンペ「Design-A-Bag 2026」ではベトナムの学生ファン・グエン・ホアイ・トゥオン氏の作品「The Unbowed Bag」が総合グランプリを受賞している。

📝 編集部コメント

APLFは革業界の「年始め」ともいえる場所。ここで形成された商談や価格感、トレンドの空気感が、半年後の製品となって店頭に並ぶ。バイヤーの参加率100%という数字は、業界が回復モードに入っていることを数字で示す強力なシグナルだ。革事業者にとっては「今年の商談を見送った競合に差をつけるチャンス」があった週でもある。次回のAPLFは2027年3月31日〜4月2日の開催が予定されており、今から戦略を描く価値がある。


③ UNIC会長「カーボンニュートラルレザーは実現可能」——香港で歴史的な宣言

APLF香港2026の会期中、3月13日に行われたLeather Leadersのプレゼンテーションで、イタリアのタンナー代表機関UNIC会長のファブリツィオ・ヌーティ氏が注目すべき発言をした。「カーボンニュートラルレザーを実際に製造しているタンナーの事例が、すでに文書化されている」と述べたうえで、さらに一歩踏み込み、「革にはカーボンニュートラルを超え、気候ポジティブ(クライメート・ポジティブ)な素材になりうる可能性がある」と主張した。その根拠として、生物由来炭素(バイオジェニック・カーボン)に関する新しい科学的知見と、合成素材の環境影響が従来の算定手法では過小評価されているという研究の進展を挙げた。「合成素材には、この可能性はない」というヌーティ氏の言葉は、ビーガンレザーや合成代替素材に対する革業界の姿勢を象徴する一言だ。科学と実績の裏付けをもって、天然皮革のサステナビリティ訴求が新段階に入りつつある。

📝 編集部コメント

「革はサステナブルではない」という誤解が根強い中、UNIC会長の発言は業界全体の反論として意味を持つ。革は食肉産業の副産物であり、廃棄すれば大量のCO2を排出する。それをなめして製品化することはアップサイクルそのものだ。さらに「気候ポジティブ」というフレームは、革業界が守りではなく攻めのメッセージを世界に発信できる武器になりうる。革好きのユーザーも、「私の革製品選びは地球に良い行為かもしれない」という視点で捉え直すきっかけにしてほしい。


④ ヤギ「ユナ・イト」展示会——サステナぶらないサステナブルをライフスタイル全般へ展開

繊維商社の株式会社ヤギが、3月に東京都内で環境配慮型素材ブランドシリーズ「ユナ・イト(UNITO)プロジェクト」の展示会を開催した。同社はオーガニックコットン、リサイクルポリエステル、リサイクルナイロンなど5つの環境配慮型素材ブランドを統合し、カジュアルウエアやスポーツウエアだけでなく、寝具・インテリアといったライフスタイル全般への展開を提案した。特に注目を集めたのは、「ユナ・イト プラス」から生まれた高機能ストレッチ糸「パーストレッチ」。インドネシアや北陸(福井・石川・富山)の繊維企業とタッグを組み、UVカット・遮熱性・吸水速乾などの機能を掛け合わせた生地を開発した。同社がコンセプトとして掲げるのは「サステナぶらないサステナブル」。言葉だけではなく、実際の素材と行動で未来を変えるという意志だ。革関連素材ではないが、ファッション業界全体のサステナブル素材への転換という文脈で、革業界も参考にすべき取り組みといえる。

📝 編集部コメント

「サステナぶらない」というフレーズは革業界にとっても耳が痛い部分がある。「エコレザー」「サステナブルレザー」という言葉がマーケティング的に飛び交う中、本当に環境負荷を低減しているのか、消費者は見抜く目を持ち始めている。ヤギのように産地技術・トレーサビリティ・認証取得を組み合わせた実質的なアプローチこそが、これからの時代に求められる。革ブランドにとっても、「なんとなくサステナブル」ではなく「証明できるサステナブル」へのシフトが急務だ。


⑤ Boscaブランド買収後の雇用開始——米オハイオ州で革製品製造が復活

1911年創業の老舗イタリア系アメリカン革製品ブランド「Bosca(ボスカ)」を昨年末に買収したエイミー・ルーサー氏が、2026年3月より米オハイオ州スプリングフィールドの工場での雇用を開始した。リノベーションが進む工場では5〜6月からの生産開始を目指している。JobsOhioの支援を受け、生産・販売部門で25名の新規雇用を計画。ルーサー氏はこれまでのメンズ革小物ビジネスの強化に加え、ウィメンズハンドバッグ市場への参入も宣言しており、Dillard’s・Von Maur・Nordstromなどの百貨店との小売パートナーシップ強化も進める方針だ。関税問題が追い風となり、米国内製造への回帰という動きがこのブランド売買の一因ともなった。前オーナーのクリス・ボスカ氏は「彼女は本物のレザーグッズへの情熱を持っている。ブランドの未来は明るい」とコメントしている。

📝 編集部コメント

日本のリーガルが国内製造を縮小する一方で、米国のBoscaが工場を再稼働させようとしている——このコントラストは意味深長だ。「国内製造×職人技×ブランドストーリー」という組み合わせは、グローバルな差別化戦略として有効だ。革製品の消費者が「どこで、誰が、どのように作ったか」を重視する流れは日本でも確実に高まっている。Boscaの再生劇は、革事業者にとって「産地回帰」「ものづくり見える化」の重要性を改めて示す事例といえる。


⑥ ラボグロウンレザー市場予測——2036年に約7億ドル規模、年率22%成長へ

2026年3月に発表された市場調査レポートによれば、グローバルの「ラボグロウン(実験室培養)レザー代替アパレル市場」は2026年現在で約9,240万ドル規模とされ、2036年には約6億8,570万ドルへと年率22.1%の高成長を続ける見通しだという。成長の原動力は、バイオテクノロジーへの投資増加・ESGコンプライアンス要件の強化・ファッション業界のサステナブル素材シフトとされている。最も採用が進んでいるのはラグジュアリーファッションアパレルセグメント(市場シェア約44.8%)で、大手ブランドがブランドポジショニングとESG対応を兼ねた形でバイオファブリケーション素材を活用している。素材タイプではカルチャードコラーゲンレザーがシェア約41.6%でトップとなっており、既存のタンナリーインフラとの親和性が高い点が採用を後押ししている。ただしこのレポートが扱う市場はあくまで「代替素材」であり、天然皮革市場とは別の動きであることに注意が必要だ。

📝 編集部コメント

ラボグロウンレザーの高成長予測は「革の脅威」として受け取られがちだが、現時点では市場規模が天然皮革の数百分の一に過ぎない。注目すべきは「既存のタンナリーインフラとの親和性」という部分。バイオ素材が完全代替ではなく、共存・補完の形で革産業に組み込まれていく可能性がある。一般消費者の視点では「ラボグロウンが増えるほど、本物の天然革の価値が相対的に上がる」という見方もできる。品質・経年変化・産地ストーリーを持つ天然革の差別化ポイントは、これからより明確になっていくだろう。


⑦ 「Make It Leather」世界キャンペーン始動——World Leather Day 2026へのカウントダウン

Leather Naturallyが主導する「World Leather Day 2026」(4月29日)に向けたグローバルキャンペーン「Make It Leather」が本格的に動き出した。同キャンペーンは3月初旬にデジタルハブを立ち上げ、SNS・PR・国際的なインフルエンサーを巻き込んだ一年を通じた展開を計画している。テーマは「量から価値へ、使い捨てから耐久性へ、トレンド消費から長期的な職人技へ」のシフトを呼びかけるもの。業界関係者だけでなく農家・タンナー・デザイナー・消費者まで、革のエコシステム全体を巻き込む構想だ。APLFの会場でも大きく取り上げられたこのキャンペーンは、業界全体が「一枚岩のメッセージ」を持って消費者に向き合う初めての本格的な試みといえる。Leather Naturallyのキャンペーン責任者は「農家からタンナー、デザイナー、消費者まで、すべての声をひとつにすることで、はるかに大きな発信力を生み出せる」と語っている。

📝 編集部コメント

「World Leather Day」は毎年4月29日に行われる革業界の国際デーだが、今年の「Make It Leather」というテーマは特に力強い。革を「あえて選ぶ素材」として位置づけ直すこの訴求は、サステナブルな消費行動としての革選択を後押しする。革好きのユーザーには「4月29日に革製品を身につけて外出する」という参加型の楽しみ方を提案したい。日本の業界関係者も、このグローバルなうねりにSNSなどで積極的に乗っていくことで、革文化の普及に貢献できる。


今週の総括・展望

2026年3月13日〜19日の一週間は、革業界の「二つの顔」が鮮明に浮かび上がった週だった。

国内では、リーガルコーポレーションの構造改革が着地点を迎えた。47名の希望退職者確定とチヨダシューズ全従業員の退職完了は、日本の革靴産業の長期的な縮小トレンドを凝縮した出来事だ。コロナ禍によるテレワーク定着、消費の二極化(超高級品 vs 激安品)、職人の高齢化と後継者不足——これらの課題は一朝一夕には解決しない。しかし「ブランドが生き残る」という事実もある。リーガルは製造拠点を再編しながら前進しようとしている。日本の革靴文化が消えるのではなく、「より少なく、より良く」という方向へ変容しつつあるのだ。

一方、海外では力強い反攻の動きが見られた。APLF香港の盛況、UNICによるカーボンニュートラルレザーの証明事例発表、そして「Make It Leather」という世界共通のスローガンの浸透。合成代替素材やラボグロウンレザーの市場拡大が続く中でも、「天然革だからこそ持てる価値」の訴求が世界規模で加速している。

革業界が直面している課題は複雑だが、方向性はおそらく一つに収束しつつある。それは「量を追うのではなく、価値を磨く」ことだ。消費者が「なぜ革なのか」という問いに答えられる革製品だけが、これからのマーケットで選ばれ続ける。産地の技術・トレーサビリティ・職人のストーリー・エイジングという体験——これらを武器にする革ブランドにとって、今は追い風が吹いている時代だとも言える。来週以降も注目したいのは、リーガル再建の具体的な高付加価値路線の展開、そしてWorld Leather Day 2026(4月29日)に向けたグローバルキャンペーンの盛り上がりだ。


レザー・皮革業界関係者の皆様へ

革製品好きのユーザーへ

リーガルのニュースを聞いて「もう革靴は終わりなの?」と感じた方もいるかもしれない。でも、そうではない。むしろ、職人の数が減るほど、良い革靴の価値は上がっていく。今手元にある革製品を大切に手入れして長く使うこと——それ自体が、革文化を守る行為だ。そして今年4月29日の「World Leather Day」には、ぜひお気に入りの革アイテムと出かけてみてほしい。革を「あえて選ぶ」その行為が、業界全体への応援になる。UNIC会長が言うように、革製品を使うことは地球環境にとっても良い選択かもしれないのだから。

革事業者・ブランド担当者へ

今週のニュースが示すことは明確だ。中価格帯の量産モデルは限界を迎えつつある一方、高付加価値路線・ストーリー訴求・サステナビリティの証明をセットで持つブランドへの追い風は強い。APLFの盛況が示すように、グローバル市場は回復基調にあり、アジア・中東・米国に向けた日本製革製品のブランド発信は今がチャンスだ。「Make It Leather」というグローバルなメッセージを活用し、SNSや展示会で世界に向けて発信する仕組みを整えておくことを強く勧めたい。また、UNICの発言が示すように、天然革のカーボン計算・ライフサイクル評価(LCA)データの整備は、これからのB2B商談に不可欠な武器になる。「証明できるサステナビリティ」を持つブランドだけが、次の10年を生き残る。


よくある質問(FAQ)

Q1. リーガルは倒産したのですか?

A. いいえ、リーガルコーポレーションは倒産していません。希望退職の実施と子会社チヨダシューズの操業停止という「構造改革」を実施したものの、ブランドとしての事業は継続しています。他の国内生産拠点での製造も継続しており、リーガルブランドの製品は引き続き販売されます。

Q2. 「カーボンニュートラルレザー」とは何ですか?

A. レザー(革)の製造・流通・廃棄にかかるCO2排出量を、植林やカーボンクレジット等で相殺し、差し引きゼロ(ニュートラル)にした革製品のことです。UNICの発表では、単に排出量を相殺するだけでなく、「気候ポジティブ(プラスの気候効果)」、つまり大気中のCO2を実質的に削減するレベルの革製造も技術的に可能だと主張しています。

Q3. ラボグロウンレザーが広まると天然革の価値はどうなりますか?

A. 市場の二極化が進むと考えられています。ラボグロウンや合成代替素材が「手頃な価格帯」の需要を吸収する一方、天然革は「本物の素材感・経年変化・産地のストーリー」を持つプレミアムカテゴリとして差別化が進む可能性が高いです。実際、ラグジュアリーブランドは天然革の高品質なものへの需要を維持・強化しており、本物の革の希少性・価値は長期的に高まっていく可能性があります。

Q4. World Leather Day(世界レザーデー)はいつですか?

A. 毎年4月29日です。2026年は「Make It Leather」をテーマに、世界各地でイベントやSNSキャンペーンが実施される予定です。Leather Naturallyが運営するデジタルハブから最新情報を確認できます。

Q5. APLFとはどんな展示会ですか?日本から参加できますか?

A. APLFはAsia Pacific Leather Fairの略で、香港を拠点とする世界最大級の皮革専門展示会です。毎年3月に開催され、100カ国以上から1万人以上が参加します。日本の革業界団体(JLIA)も参加しており、日本から出展・来場することは可能です。次回は2027年3月31日〜4月2日の予定です。