父の日を控えた6月第3週は、ラグジュアリーブランドの決算と人事が相次いだ一週間となりました。ジミー・チュウやランバンといったメゾンの動きから、レザー廃材の再活用、各国の市場動向まで、世界の革業界は構造転換の真っただ中にあります。今週は国内外で起きた7つの話題を、編集部の視点を添えてお届けします。
目次
- ①カプリ・ホールディングス、通期で黒字転換(ジミー・チュウ/マイケル・コース)
- ②横浜元町「キタムラ」、ロングセラーポシェット「ポケットプラス」に新作
- ③パリ最古のメゾン「ランバン」、新CEOにバルバラ・ヴェルシャイン氏
- ④レッドウィング、レザー廃材を「バイオ炭」に再生
- ⑤英国の皮革輸出、2025年も14.1%減
- ⑥ジャガー・ランドローバー、20億ポンドの借り換えを模索
- ⑦インド・タミルナドゥ州、ゼロウェイスト型の皮革インフラを推進
- 今週の総括・展望
- レザー・皮革業界関係者の皆様へ
- よくある質問(FAQ)

①カプリ・ホールディングス、通期で黒字転換(ジミー・チュウ/マイケル・コース)
マイケル・コースとジミー・チュウを擁する世界的ラグジュアリーグループ、カプリ・ホールディングスが、2026年3月28日締めの2026会計年度で黒字に転換しました。売上高は前年比4.1%減の34億7,000万米ドルと減収ながら、継続事業からの利益は8,000万米ドルと、前年の5億2,600万米ドルの赤字から大きく改善しています。ヴェルサーチェ売却(プラダへの譲渡)が完了したことなどで純有利子負債は約14億ドルから2億2,200万ドルへと圧縮されました。ブランド別ではジミー・チュウの第4四半期売上高が5.3%増の1億4,000万ドルと伸びています。
📝 編集部コメント
減収でも黒字化を果たした背景には、在庫圧縮と負債削減という地道な体質改善があります。ヴェルサーチェを手放して身軽になり、コア事業に集中する戦略が功を奏した形です。革製品を愛用される方にとっては、こうした再建局面でジミー・チュウのレザーシューズやマイケル・コースのバッグがどう変わるかが見どころです。事業者の皆様にとっては、ブランドポートフォリオの「選択と集中」が利益率回復の近道になるという好例といえます。
②横浜元町「キタムラ」、ロングセラーポシェット「ポケットプラス」に新作
1882年に横浜・元町で創業したバッグブランド「キタムラ」(ブルーミング中西)は6月17日、人気のショルダーポシェット「ポケットプラス」の新作を発表しました。「いつもの装いに、ポケットをひとつ添える」という発想から生まれたロングセラーで、累計34,000個を超える販売実績を持つ定番です。今回の新作はキタムラらしい上品さを表現したラメ入りのツイード調素材を採用し、ベージュとブラックの2色を展開します。オンラインショップおよび全国の一部百貨店で販売されます。
📝 編集部コメント
革小物の老舗として知られるキタムラですが、今回はあえてツイード調の素材で季節感を演出しました。ブランドの核にある「やさしさ・上品さ」という価値観は、素材が変わっても一貫しています。革好きの方には、こうした老舗がレザー以外の素材でもブランドらしさを保てる理由を、長年培った設計力やものづくりの哲学から読み解いていただくと面白いはずです。事業者の皆様には、定番品の素材替えで新規需要を掘り起こす手堅い手法として参考になります。
③パリ最古のメゾン「ランバン」、新CEOにバルバラ・ヴェルシャイン氏
パリ最古のクチュールハウスとされるメゾン・ランバンが、バルバラ・ヴェルシャイン氏を最高経営責任者(CEO)に起用しました。同氏はラグジュアリー分野で20年以上の経験を持ち、直前はエリック・ボンパールのCEOを務めていました。注目すべきは、それ以前にエルメスでレザーグッズ・コレクションのディレクターを務めていた経歴です。セリーヌやルイ・ヴィトン、ザディグ&ヴォルテールでの要職や、マッキンゼーでの戦略コンサルタント経験も持ちます。ランバン・グループは上海とミラノに拠点を置き、ウォルフォードやセルジオ・ロッシなどを擁しています。
📝 編集部コメント
エルメスでレザーグッズを統括した人物がメゾンのトップに就く——この人事は、革製品がブランド再建の鍵を握っていることを改めて物語っています。前のニュースのジバンシィやカプリと併せて見ると、ラグジュアリー業界全体で「レザーグッズに精通した経営人材」の争奪が進んでいる構図が浮かびます。革好きの方は、新体制でランバンのバッグがどう進化するかに注目です。事業者の皆様には、レザーの知見が経営層レベルで評価される時代になったという気付きをお届けします。
④レッドウィング、レザー廃材を「バイオ炭」に再生
米ミネソタ州の老舗ブーツメーカー、レッドウィング・シュー・カンパニーが、2025年9月以降に約848,000kgのレザー廃材を埋め立て処分から転換したと報じられました。同社のCSR、製造、サプライチェーン、そして自社タンナーであるS.B.フット・タンナリーの各部門が連携し、革の循環的な廃棄物管理を進めた成果です。発生したレザー廃材はすべてMatter Systems社に送られ、土壌改良や長期的な炭素貯留に役立つ炭素豊富な安定素材「バイオ炭」へと変換されています。
📝 編集部コメント
「捨てる」しかなかった革の端材を、土を豊かにする資源へと転換する——これは循環型ものづくりの理想的なモデルです。製造工程で必ず出る端材をどう扱うかは、革製品のサステナビリティを語るうえで避けて通れないテーマです。革製品を愛用される方には、ブーツ一足の裏側でこうした取り組みが進んでいることを知っていただけると、製品への愛着が深まるはずです。事業者の皆様にとっては、廃材活用が環境対応とブランド価値向上を同時に実現する好例となります。
⑤英国の皮革輸出、2025年も14.1%減
業界団体レザーUKの新たな報告によると、英国の皮革産業は2025年も厳しい一年となり、輸出額は前年比14.1%減の1億5,950万ポンド(約2億1,389万米ドル)まで落ち込みました。世界的な需要の弱さと、続く価格下落圧力が市場を圧迫し続けていることが背景にあります。かつて世界の皮革産業を牽引した英国でさえ、グローバルな需給環境の変化からは逃れられないことを示す数字です。
📝 編集部コメント
前出のカプリやランバンのような華やかなブランドの話題の一方で、川上の皮革取引そのものは需要減と価格下落に苦しんでいます。最終製品の世界と素材供給の世界では、見えている景色がまったく異なるのです。事業者の皆様にとっては、ブランドの好調がそのまま素材サプライヤーの好調を意味しないという、サプライチェーンの現実を再認識させる指標です。革好きの方には、一枚の革が製品になるまでの道のりが、決して平坦ではないことを知っていただければと思います。
⑥ジャガー・ランドローバー、20億ポンドの借り換えを模索
英自動車大手のジャガー・ランドローバー(JLR)が、2027年に満期を迎える債務の借り換えのため、国際的な銀行団から20億ポンド(約26億8,000万米ドル)の5年シンジケートローンを調達しようとしていると報じられました。シティバンクやHSBC、三菱UFJなどが組成に関与しているとされます。タタ・モーターズ傘下の同社は、ジャガーの完全電動化をはじめとするEV戦略への投資を続けており、今回の借り換えはその長期的な投資計画を支える狙いがあります。
📝 編集部コメント
一見すると革とは無関係に見える自動車メーカーの財務ニュースですが、高級車の内装は革の一大需要先です。JLRのような高級車ブランドの設備投資や電動化の動向は、自動車向けレザーの需要を左右します。事業者の皆様にとっては、自動車業界の資金繰りや電動化シフトが、車載レザーの受注に波及する点を意識しておきたいところです。革好きの方には、上質なクルマのシートやハンドルにも、職人の技術が息づいていることを思い出していただければ嬉しいです。
⑦インド・タミルナドゥ州、ゼロウェイスト型の皮革インフラを推進
インドの主要な皮革産地であるタミルナドゥ州政府が、州内の皮革産業全体で環境順守とインフラ整備を進める一連の施策を打ち出しました。「ゼロウェイスト(廃棄物ゼロ)」を志向した取り組みで、環境負荷の低減と産地の持続性向上を狙ったものです。インドは世界有数の皮革生産国であり、環境対応の高度化は欧米をはじめとする取引先からの信頼を保つうえで不可欠です。先週のパキスタンの統合型排水処理施設の稼働と併せ、南アジアの皮革産地で環境投資が加速していることがうかがえます。
📝 編集部コメント
環境対応は、もはや一部の先進企業だけの課題ではなく、産地全体・州全体で取り組むテーマへと広がっています。州政府が主導して廃棄物ゼロのインフラを整える動きは、中小タンナーが集積するインドならではの現実的な解決策です。革製品を選ぶ際に「どの産地が環境対応を進めているか」を知っておくと、納得感のある選択につながります。事業者の皆様には、調達先の産地が環境インフラをどこまで整えているかが、将来のリスク管理に直結する点をお伝えします。
今週の総括・展望
今週を振り返ると、ラグジュアリーブランドの「再建と人材」が大きなテーマとなりました。カプリの黒字転換、ランバンの新CEO起用、そして自動車のJLRの財務戦略まで、各社が厳しい環境下で生き残りをかけた動きを見せています。とりわけ、ランバンの新CEOがエルメスのレザーグッズ出身である点は象徴的で、レザーの専門性が経営の中核に位置づけられる時代になったことを示しています。
一方、川上に目を向けると、英国の皮革輸出の減少が示すように、素材取引の現場は需要減と価格下落という逆風にさらされています。その中で、レッドウィングのバイオ炭活用やタミルナドゥ州のゼロウェイスト施策のように、環境対応を新たな価値へと転換する動きが世界各地で広がっています。国内では横浜元町キタムラの新作が、老舗の地道なものづくりの底力を見せてくれました。「ブランドの再編」と「環境対応の深化」という二つの潮流が、引き続き業界を動かしていくでしょう。
レザー・皮革業界関係者の皆様へ
革製品好きのユーザー
今週は、ジミー・チュウやランバンといった憧れのメゾンが、決算や人事を通じて「次の一手」を打つ姿が見られました。ブランドの裏側で起きている経営の動きを知ると、いつものバッグや靴がより味わい深く感じられるはずです。また、レッドウィングのように、一足のブーツの背後で廃材を資源に変える努力が続いていることにも、ぜひ目を向けてみてください。父の日のギフト選びの参考にもなりましたら幸いです。
革事業者・ブランド担当者
今週のニュースは、最終製品の世界と素材供給の世界のギャップを浮き彫りにしました。ブランドが黒字化や体制刷新に動く一方で、英国の輸出統計が示すとおり、素材取引は依然として価格下落圧力にさらされています。この乖離を踏まえ、調達計画とリスク分散をどう設計するかが問われます。同時に、レッドウィングやタミルナドゥ州の事例が示すように、環境対応を「コスト」ではなく「差別化の武器」として位置づける視点が、これからの競争力を左右します。
よくある質問(FAQ)
Q. カプリ・ホールディングスとはどんな会社ですか?
マイケル・コースやジミー・チュウを傘下に持つ、米国を拠点とする世界的なラグジュアリーファッショングループです。かつてはヴェルサーチェも所有していましたが、同ブランドはプラダへの売却が完了しています。
Q. バイオ炭(バイオチャー)とは何ですか?
有機物を酸素の少ない環境で加熱して作られる、炭素を豊富に含む安定した炭のことです。土壌に混ぜることで保水性や肥沃度を高めたり、炭素を長期間地中に固定したりする効果が期待され、廃棄物の有効活用策として注目されています。
Q. なぜ自動車メーカーの動向が革業界のニュースになるのですか?
高級車の内装には、シートやハンドル、内張りなどに大量の革が使われており、自動車は皮革の大きな需要先の一つだからです。自動車メーカーの生産計画や電動化の動向は、車載用レザーの需要に直接影響します。
Q. 「ゼロウェイスト」な皮革産業とはどういう意味ですか?
なめしや製造の過程で出る排水や端材などの廃棄物を、可能な限り出さない、あるいは資源として再活用することを目指す考え方です。排水処理施設の整備や端材のアップサイクルなどが具体的な取り組みにあたります。
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参考記事リンク
- Capri beats expectations and returns to annual profit(International Leather Maker)
- 横浜元町「キタムラ」ポケットプラス新作発売(ブルーミング中西/PR TIMES)
- Lanvin appoints Barbara Werschine as CEO(International Leather Maker)
- Red Wing gives second life to leather byproducts(International Leather Maker)
- UK leather trade declines again in 2025(International Leather Maker)
- JLR seeks major loan to refinance debt(International Leather Maker)
- Tamil Nadu advances zero-waste leather infrastructure(International Leather Maker)
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