今週の革業界は、国内では第111回東京レザーフェアの入場者数が公表され、市場の変化を映す興味深いデータが明らかになりました。海外では、欧州のEUDR(森林破壊防止規則)から革製品が除外されるという歴史的な決定が業界に大きな波紋を呼んでいます。また、持続可能な革産業の実現に向けた水資源管理の新たな指針も発表され、サステナビリティをめぐる議論は新たな局面を迎えています。
目次
- 第111回東京レザーフェア閉幕——入場者数は前年比8.3%減、鞄・袋物とアパレルは増加
- EUの森林破壊防止規則(EUDR)から革製品が除外へ——業界の歴史的勝利と環境団体の反発
- Leather Naturally、水資源管理を「革業界最大の戦略課題」と宣言——新レポート公開
- 中国・革衣料品の輸出入がQ1 2026に急伸——衣料輸出が前年比54.3%増
- 中国革業界、2026年に向け回復トレンドへ——ACLE上海開幕を前に楽観的見通し
- 今週の総括・展望
- レザー・皮革業界関係者の皆様へ
- よくある質問(FAQ)
- 参考記事リンク
- 過去分はこちら!
① 第111回東京レザーフェア閉幕——入場者数は前年比8.3%減、鞄・袋物とアパレルは増加
2026年5月21日(木)・22日(金)の2日間、東京・台東区の都立産業貿易センター台東館にて、日本最大級の皮革・資材の展示会「第111回東京レザーフェア(TLF)」が開催されました。協同組合資材連が主催するこの展示会は1970年の初開催から半世紀以上の歴史を誇り、革問屋・タンナー・副資材メーカーが一堂に会する業界の一大イベントです。
今回、主催者から発表された入場者数は前年同月開催比で8.3%減となりました。全体数が減少する中でも、「鞄・袋物」および「アパレル」カテゴリの来場者は前回より増加しており、革小物・バッグ市場とレザーウェア市場への関心の高まりが数字に表れています。一方で、シューズ関連の来場者が減少傾向にあることが示唆されており、業界内でのニーズの変化を読み取ることができます。
今回の山陽(株)は防水革や傷防止革などの機能性素材を中心に出展。久保柳商店もトレンド見本帳を携えての出展となりました。革業界のプロたちが集う展示会でありながら、来場者の構成が変化していることは、川下(製品・ファッション側)からのニーズが素材業界に求めるものが変わってきている証左といえるかもしれません。
📝 編集部コメント
全体の入場者数が減少しても、鞄・袋物とアパレルが増えているという点は見逃せません。レザーグッズ・レザーウェアへの消費者需要は底堅く、製品を作る側も素材との直接的な接点を求めて展示会に足を運んでいることがわかります。東京レザーフェアは単なる素材見本市にとどまらず、業界のトレンドセンサーとしての役割を担っていると実感させられるデータです。
② EUの森林破壊防止規則(EUDR)から革製品が除外へ——業界の歴史的勝利と環境団体の反発
欧州委員会が5月4日に公表した「EU森林破壊防止規則(EUDR)」の見直しパッケージにて、革・原皮・毛皮(hides and skins)がEUDRの適用対象から除外されることが正式に提案されました。EUDRは牛肉・大豆・コーヒーなど特定の一次産品について、EU市場への輸入に際して「森林破壊に関与していないこと」を証明することを義務付けるものです。
業界団体のCOTANCE(欧州タンナー協会)、LHCA(米国皮革・原皮協議会)、UNIC(イタリアタンナー協会)などが数年にわたり激しいロビー活動を展開し、「革は牛肉の副産物であり、森林破壊の主要因ではない」という科学的根拠を訴え続けた結果の決定です。GreenpeaceやHuman Rights WatchなどのNGOは「革製品の供給チェーンは牛肉と不可分であり、抜け穴を設けることは規制を骨抜きにする」と強く反発しており、EU議会・加盟国が欧州委員会案を承認するかどうか、引き続き注目が集まっています。
📝 編集部コメント
革業界にとってはEUDRへの対応コストとビジネスリスクが大幅に軽減される「歴史的勝利」と呼べる決定です。ただし、この除外は確定ではなく、EU議会と加盟国の承認が必要です。また、消費者やブランド側からの「サプライチェーンの透明性要求」は規制の有無に関わらず続くことが予想されます。規制に追われるのではなく、自発的なサプライチェーン開示を進めることが、むしろ競争優位性につながる時代になっています。
③ Leather Naturally、水資源管理を「革業界最大の戦略課題」と宣言——新レポート公開
革産業のサステナビリティ推進機関であるLeather Naturallyは、5月12日に「皮革産業における持続可能な水資源管理」レポートを公表し、続く5月20日にはインパクトチームのAukje Berden氏による意見記事を発表しました。
Berden氏は「水はもはや革製造における単なるインプット資源ではない。水こそが革業界の環境的信頼性、操業の持続可能性、長期的な存続を測る最重要指標になっている」と述べ、業界全体でのアプローチの転換を訴えています。レポートでは、気候変動に伴う水ストレスの高まり、より精緻な水使用量測定フレームワークの必要性、循環型ソリューションの実践などが取り上げられています。
Leather NaturallyのLCA(ライフサイクル評価)研究によれば、革の水インパクトは農業段階(牛の飼育)から製品製造まで広く分散しており、「鞣し工程だけが問題」という従来のイメージは必ずしも正確ではないとされています。
📝 編集部コメント
水資源は今後、革製品の「環境ラベル」や「サプライチェーン評価」において中心的な指標になる可能性があります。日本の老舗タンナーでも、水のリサイクルや排水処理の取り組みを対外発信することが、ブランドや小売業者との取引においてプラスに働く場面が増えてくるでしょう。「姫路レザー」「栃木レザー」など産地ブランドとしても、水の話は地域イメージと直結します。
④ 中国・革衣料品の輸出入がQ1 2026に急伸——衣料輸出が前年比54.3%増
中国皮革工業協会(CLIA)が公表したデータによると、2026年1〜3月期(Q1)の革衣料品輸出額は3,350万ドル(前年同期比+54.3%)、輸入額も3,402万ドル(同+27.8%)と、いずれも二桁成長を記録しました。
一方、革・靴・革衣料・鞄・ケースを含む中国革産業全体の輸出総額は2026年Q1で190億5,000万ドルと前年同期比4.22%減で、全体としては依然として調整局面が続いています。しかし革衣料品に限れば急成長しており、ファッションとしてのレザーウェア人気が中国国内外で高まっていることを示すデータです。
📝 編集部コメント
革衣料品の輸出が前年比5割増という数字は驚異的です。世界的なレザーウェアへの再評価の波は、バッグや財布だけでなくジャケット・コートにも及んでいます。中国の製造業者がこのカテゴリに経営資源を投入していることは、素材市場での革衣料品向け原皮の需要増にもつながる可能性があります。日本のタンナーや革製品メーカーにとっても、レザーウェア市場は見逃せないセグメントです。
⑤ 中国革業界、2026年に向け回復トレンドへ——ACLE上海開幕を前に楽観的見通し
APLFが5月21日に公開したインサイトによると、中国の革産業は2026年を通じてプラスの勢いを維持する見通しとされています。国内消費の回復、消費者マインドの改善、そして「一帯一路」関連市場やASEAN諸国での販路拡大が下支えになると分析されており、上海で開催予定の全中国革展覧会(ACLE)を前にした事前情報として発表されました。
中国は世界最大の革生産・輸出国として、2025年の輸出不振(1〜11月で前年比10.5%減)から反転しようとしています。国内の若年消費者層を中心とした革製品への愛好、および「アーバンプレミアム」と呼ばれる耐久性とデザイン性を兼ね備えた製品への需要が牽引役になるとみられています。
📝 編集部コメント
中国市場が回復軌道に乗ることは、グローバルな革の需給にも影響します。日本の皮革ブランドや小売業者にとっては、中国消費者向けの訴求力(高品質・産地ブランド・職人性)を改めて磨く機会でもあります。訪日外国人が増える中、「メイド・イン・ジャパン」の革製品に対する中国人観光客の関心は依然として高く、インバウンド需要との掛け算も大きなチャンスです。
今週の総括・展望
今週の革業界を俯瞰すると、国内・海外で対照的な動きが交錯した1週間でした。
国内では、第111回東京レザーフェアの入場者数が前年比で減少したものの、鞄・袋物・アパレルという「付加価値の高いセグメント」への関心は増加しており、革素材への需要は「広く浅く」から「狭く深く」へとシフトしていることが読み取れます。展示会の量的な成長よりも、コレクションとしての質・編集力が問われる時代に入ったとも言えるでしょう。
海外では、EUDRからの革除外という規制面での大きな変化が確定の瀬戸際にあります。環境規制が業界にとって追い風になるのか向かい風になるのかは、単純に「規制があるかどうか」ではなく、業界自身がいかに自発的なサステナビリティ基準を打ち立てられるかにかかっています。Leather Naturallyの水資源管理レポートはその好例で、規制の外側にある業界主導の基準形成が今後ますます重要になるでしょう。
また、中国革産業の回復見通しと衣料品輸出の急増は、グローバルな革素材の需給バランスに影響を与える可能性があります。日本の革産業にとっては、国内市場の成熟・縮小に向き合いながら、高品質・高付加価値という強みを武器に、引き続き国際的なポジションを探っていくことが求められます。
レザー・皮革業界関係者の皆様へ
革製品好きのユーザー
今週は東京レザーフェアという、革好きにとって少し遠い世界の話題が中心でしたが、実はこの展示会が革ファンの日常と深くつながっています。タンナーや革問屋が出展して素材を披露し、製品メーカーやブランドのデザイナーたちが素材を選定しに来る——この循環の先に、皆さんが手にする財布やバッグが生まれています。鞄・袋物ユーザーが展示会を訪れる人が増えているということは、「作る人とつながりたい」「素材から知りたい」という気持ちを持った消費者が増えている証拠かもしれません。革の世界はどんどん近くなっています。
革事業者・ブランド担当者
今週のEUDR除外ニュースは短期的には朗報ですが、消費者・バイヤー・海外パートナーからの「サプライチェーン透明性」へのプレッシャーは規制の有無に関わらず続きます。今のうちに自社の水使用量・排水処理・原皮トレーサビリティについてのデータ整備を進めておくことが、数年後の差別化要因になります。また、レザーウェア市場の急拡大は素材・縫製・販路各所に機会をもたらしています。自社のリソースがどのセグメントにフィットするかを今一度確認する良いタイミングです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 東京レザーフェアとはどんな展示会ですか?
東京レザーフェアは、協同組合資材連が主催する日本最大級の皮革・布帛・副資材の展示会です。毎年春と秋の年2回、東京・台東区の都立産業貿易センター台東館にて開催されます。タンナー(なめし革製造業者)や革問屋、副資材メーカーなどが出展し、ファッションメーカー・バッグブランド・靴メーカーなどのデザイナーやバイヤーが素材を選定するために来場します。1970年の初開催から半世紀以上続く歴史的な展示会です。
Q2. EUDRとは何ですか?また革が除外されるとどうなりますか?
EUDRはEU森林破壊防止規則(EU Deforestation Regulation)の略称で、牛肉・大豆・コーヒー・パーム油・木材などの特定商品について、EU市場に輸出する企業が「その生産に際して2020年以降の森林破壊に関与していない」ことを証明することを義務付ける法律です。今回の革除外提案が最終的に承認されると、革製品メーカーや皮革輸入業者はこの証明義務を負わなくなります。ただし環境NGOなどはこの除外に強く反対しており、今後のEU議会・加盟国での審議が注目されます。
Q3. 革製造における水問題はなぜ重要ですか?
皮革のなめし加工(タンニング)には大量の水が必要で、その排水処理が不適切な場合、河川汚染などの環境問題につながります。一方で、革は植物由来の合成皮革や石油由来のPU素材と比較して長寿命であり、製品ライフサイクル全体で見た場合の環境負荷は必ずしも高くないという研究もあります。水資源の適切な管理と使用量の可視化は、消費者・バイヤー・規制当局からの信頼を得るための重要な取り組みです。
Q4. 中国の革衣料品輸出が急増しているのはなぜですか?
世界的なファッション市場でレザーウェア(レザージャケット・コートなど)が再評価されていることが背景にあります。「耐久性・質感・エイジング(経年変化)」への注目が高まる中、合成素材に対する見直しが進んでおり、本革製品への需要が回復しています。中国の製造業者はこのトレンドを捉え、革衣料品の生産・輸出を拡大させています。
Q5. 日本の革産業は今後どうなりますか?
日本の革産業は姫路(国内生産の約7割)、東京・墨田、栃木など産地を中心に技術水準の高さで知られています。一方、職人の高齢化・後継者不足・輸入品との価格競争という課題も抱えています。今後は「高付加価値化(職人技・産地ブランド・サステナビリティ)」と「デジタルを活用した販路開拓」が鍵となるでしょう。革産業の復権を目指す動きは各地で活発化しており、引き続きleather-note.comでも最新情報をお届けします。
参考記事リンク
- シューズポストオンライン「第111回東京レザーフェア」入場者数発表(2026年5月26日)
- APLF「Water and the Leather Industry」(2026年5月26日)
- Leather Naturally「Water Is the Leather Industry’s Defining Challenge」(2026年5月20日)
- APLF「China Reports Strong Growth in Leather Garment Exports and Imports in Q1 2026」(2026年5月26日)
- APLF「China leather sector eyes growth in 2026 amid market recovery」(2026年5月21日)
- Mongabay「EU moves to drop leather from deforestation law after industry lobbying」(2026年5月5日)
- Fern「Commission rules out re-opening EUDR but drops leather from goods covered by it」(2026年5月5日)
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